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■お役立ちメニュー:安心感の強い大手不動産ブログ:15年12月20日


「ごま漬けに酢は入れんのかい?」
それはお母さんの認知症を決定づけた一言だった。

姉貴やいもうとからは、
最近お母さんが少しおかしいと聞いていたが、
遠く離れたあたしは、あまり気にもとめていなかった。

九十九里の名産であるごま漬けは、
小指程度の小さな背黒イワシを丸ごと、
頭と内臓をひとさし指でキュッと取って、
塩水に一夜、酢水に一夜つけ…

一段ずつ、きれいに並べ、
ゆず、はりしょうが、ごま、とうがらしの輪切と順番に振り、
一段、又一段と、気の遠くなるような作業を繰り返し…

そして
しばらく置くと、
子供もお年寄りも骨ごと食べれる
イワシのごま漬けの完成となる。

お母さんの味はどんな有名な店のものよりもおいしく、
お母さん自身もそれをわかっていた。
だからあたしが実家へ帰るからというと
必ず手土産にと作ってくれておいた。

いつ頃からか少し味がかわってきて…
ん?何かが違うという感じが、現実のものとなったのだ。
50年やってきた当たり前が、お母さんの記憶から消えた。

たばこの自動販売機に古い500円札を入れて
入らないと泣きだしそうになったり、
お札に火をつけて燃やしてしまったり、
お母さんの中で一体何が起きているんだろう?

親父が亡くなって七年、
独りで淋しかったんだね…ごめんね…

今はまだ、
お母さんの中にあたし達はいるんだろうか?
あたし達の笑顔はお母さんに届いているんだろうか?
あたし達の想いは…

忘れんぼうになったお母さんは
「ありがと」「ありがと」とそればかり…
もういいよ。

お母さんのシワシワになった笑顔の中に
あたし達がいつまでもいられますように…

「ありがとう」は、あたし達の方だよ。